最近、SNSやYouTubeでよく目にする**「格安全塗装(激安オールペン)」**。
「10万円以下で車が好きな色愛車の色が飽きてきた、塗装が劣化してきた、あるいは自分だけのオリジナルカラーにしたい。
そんな時、これまでは「全塗装(オールペイント)」といえば、30万円〜50万円、高級車なら100万円コースが当たり前でした。
しかし最近、**「9万8千円〜」「DIYなら2万円」**といった破格の全塗装サービスやキットが流行しています。
なぜここまで価格差があるのか? 安いなりの理由は何なのか?
その実態に迫ります。
1. なぜそんなに安くできるのか?「安さのカラクリ」
通常の板金塗装工場で行う全塗装と、格安塗装店(またはDIY)では、作業工程が根本的に異なります。
価格差の正体は、材料費以上に**「人件費(手間)」**の差です。
通常の全塗装(30万円〜)
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部品の脱着: バンパー、ライト、ドアノブ、モール、ガラスなどを全て外します。
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下地処理: 古い塗装を研磨し、凹みを直し、サフェーサー(下地剤)を丁寧に塗ります。
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塗装: 専用ブース(ゴミが入らない部屋)で、高品質なウレタン塗料を塗り重ねます。
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磨き: 塗装肌を整え、鏡のように磨き上げます。
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ドア内側: ドアを開けたときに見えるステップ部分や内側も塗ります。
格安全塗装(〜10万円前後)
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マスキングのみ: 部品は基本的に外しません。ライトやドアノブの上からテープ(マスキング)を貼って塗ります。
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簡易下地: 足付け(キズをつけて塗料の食いつきを良くする)のみで、凹み修理は別料金か省略。
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塗装: 簡易ブースや屋外で塗ることも。塗料もコスト重視のものを使用。
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磨きなし: 塗りっぱなし(特にマット塗装の場合)で終了。
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外側のみ: ドアを開けると元の色が残っています。
つまり、格安塗装は**「手間のかかる工程を極限までカット」**することで、あの価格を実現しているのです。
2. 格安全塗装の「メリット」
もちろん、悪いことばかりではありません。ニーズに合えば非常に魅力的です。
① 圧倒的なコストパフォーマンス
何と言っても安さです。数十万円かかる施工が、スマホ1台分くらいの値段で済みます。「廃車にするまで乗り潰すつもりだから、安くイメチェンしたい」という場合には最適です。
② 流行りの「マットカラー(つや消し)」が手軽に
最近のアウトドアブームで人気の、アースカラー(サンドベージュやオリーブドラブ)のマット塗装。
マット塗装は「磨き」の工程が不要(磨くとツヤが出てしまうため)なので、格安塗装との相性が非常に良いです。多少の粗も、マットな質感なら「ワイルドな味」として許容されやすいメリットがあります。
③ ボロ隠し・リフレッシュ
塗装が剥げてカサカサになった古い軽自動車や、商用バン。これらを格安塗装でリフレッシュすれば、古臭さが消え、おしゃれな「遊び車」に変身します。
3. 格安全塗装の「デメリット・リスク」
ここが一番重要です。「安いから」と飛びつく前に、以下のリスクを許容できるか自問自答してください。
① 仕上がりの粗さ(近くで見ちゃダメ)
部品を外さずに塗るため、どうしても以下の現象が起きます。
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マスキング跡: ゴムモールやライトの縁に、塗料の段差や、テープを剥がした際のバリが残ります。
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塗り残し: ドアノブの裏側や隙間に、元の色がチラッと見えることがあります。
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ゴミ噛み: 簡易設備の場合、塗装表面に小さなブツブツ(ゴミ)が付着しがちです。
「5メートル離れて見ればカッコいい」レベルであることが多いです。
② ドアを開けた時の「現実」
基本的に外側しか塗らないため、ドアを開けた瞬間、給油口を開けた瞬間に**「元の色」**がこんにちはします。
白い車を黒く塗った場合など、そのコントラストはかなり目立ちます。これを気にする人には絶対におすすめしません。
③ 査定額(リセールバリュー)の激減
これが最大の落とし穴です。
通常の高品質な全塗装であれば、車種によってはプラス査定になることもありますが、格安塗装された車は、中古車市場では「改造車」や「状態の悪い車」として扱われることがほとんどです。
極端な話、**「査定額0円」**になる覚悟が必要です。
「数年乗って売ろう」と考えている車には、絶対にやってはいけません。
④ 耐久性の問題
下地処理が簡易的であるため、数年後に塗装がパリパリと剥がれてきたり、色あせが早かったりするリスクがあります。特にDIYの缶スプレーやローラー塗装の場合、プロの塗装に比べて耐久性は著しく劣ります。
4. 流行りの「DIYローラー塗装」はどう?
刷毛とローラーで塗るキットも人気ですね。
これは完全に**「イベント」「遊び」**として捉えるべきです。
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メリット: 家族や友人と塗るのが楽しい。材料費2万円程度で済む。
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デメリット: ムラになる。表面がザラザラになる。洗車機に入れると剥がれる可能性がある。
「失敗してもそれが味!」と笑える古いジムニーや軽トラなら最高ですが、普段使いの乗用車でやると、後悔する確率が高いです。
5. 結論:「やっていい人」と「ダメな人」
これまでの話をまとめると、格安全塗装をおすすめできるのは次のような方です。
【おすすめできる人】
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10年以上落ちの古い車に乗っている
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この車を廃車になるまで乗り潰すつもりだ(売る気がない)
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細かい仕上がり(ゴミやマスキング跡)は気にしない
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とにかく安く、雰囲気を変えたい
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商用バンや軽トラを、おしゃれな社用車にしたい
【絶対にやめたほうがいい人】
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高年式の新しい車に乗っている
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将来、車を売るつもりがある
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洗車傷や、細部の汚れが気になる神経質なタイプ
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「ディーラー純正のような仕上がり」を安く求めている
まとめ
格安全塗装は、車の楽しみ方のハードルを下げた素晴らしい文化ですが、あくまで**「簡易塗装」**であることを理解して利用するのが賢い付き合い方です。
「安く済ませたい」という気持ちは痛いほど分かりますが、
**「安物買いの銭失い」**にならないよう、ご自身の愛車の価値と、求めるクオリティを天秤にかけて判断してください。
もし、「予算は抑えたいけど、恥ずかしくないレベルには仕上げたい」とお悩みであれば、一度プロの板金塗装工場にご相談ください。
「外側だけでいいから、部品脱着は最小限で、でも肌調整はしっかりやる」といった、予算に合わせた松竹梅のプランを提案できる工場も多くあります。
後悔のない選択で、素敵なカーライフを!