はじめに:流行語にもなった「白200色」の衝撃
「白って200色あんねん!」
このセリフを聞いて、ピンとこない人はいないでしょう。タレントのアンミカさんが放ったこの言葉は、瞬く間に流行語となり、多くの人に「白」という色の奥深さを知らしめました。
しかし、私たちのように日々塗料と向き合い、微妙な色の違いを扱う塗装職人にとって、この言葉は単なるジョークや誇張では済まされません。実際に、この業界の最前線で働く人間として、「白は本当に200色あるのか?」という疑問に真剣に向き合ってみたいと思います。
今回は、塗装職人の視点から、アンミカさんの言葉の真実と、プロが考える**「白」の無限の可能性**について、熱く、そして深く語っていきたいと思います。
🔍 塗装職人としての答え:「白200色」は真実であり、同時に誇張でもある
結論から言います。
アンミカさんが言う「白200色」は、**「物理的・感覚的には真実である」と私たちは考えます。しかし、「名前がつけられた色見本として存在する白が200色あるか?」と問われると、それは「誇張である(ただし、200色以上作ることは可能)」**という答えになります。
この二面性を理解することが、「白」という色の奥深さを知る鍵となります。
1. 【誇張の部分】色見本帳の「白」の数
私たちが塗装現場で日常的に使用する工業規格やデザイン用の色見本帳(DIC、PANTONEなど)を見てみましょう。前回のブログでも触れましたが、これらで**明確に名前と番号が与えられた「白の系統色」**は、数十色からせいぜい100色程度でしょう。
例えば、
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「アイボリーホワイト」
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「オフホワイト」
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「クールホワイト」
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「シェルホワイト」
のように、名前が付けられた白は有限です。市販の塗料メーカーの標準色でも、何百種類もの「白」を在庫しているわけではありません。
2. 【真実の部分】職人が「調色」で生み出す白のバリエーション
では、なぜ200色という表現が生まれるのでしょうか?それは、**「塗料の調色」**という作業にあります。
塗装職人にとって、色とは「A色とB色を混ぜて作るもの」です。特に「白」は、ベースとなる白い塗料に、わずか数滴の**「黒、黄、青、赤、茶」**といった原色を混ぜることで、その表情を一変させます。
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青を1滴混ぜる: 寒色系の「シャープな白」に。
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黄を1滴混ぜる: 暖色系の「優しい白」に。
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黒を極微量混ぜる: わずかに彩度を落とした「ニュートラルな白」に。
この「わずか数滴」の配合を変えるだけで、人間の目には全く別の「白」として映ります。色の三要素(色相、明度、彩度)のいずれかを極めて微細に調整する組み合わせは、理論上、無限大です。
職人の目と経験があれば、**既存の色見本には載っていない「その場所、その素材のための白」を、200種類どころか、それ以上作り出すことは十分に可能です。アンミカさんの「200色」は、この「調色の可能性」**を、感覚的に表現した言葉なのです。
💡 現場で求められる「職人の白」のシビアさ
私たちが「白」の調色にこだわるのは、単なる芸術性だけではありません。現場には非常にシビアな理由があります。
1. 経年変化(色褪せ)への対応
車のバンパーや外壁など、部分的に塗り直す**「部分塗装」の場合、新しく塗る白は、紫外線などで「色褪せ」**した既存の白と完璧に合わせる必要があります。
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例えば、新車の時の「ピュアホワイト」は、数年経つとわずかに黄ばみ、彩度が落ちています。
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この黄ばんだ「白」を再現するためには、新しい塗料にごくわずかな黄色の顔料と黒の顔料を混ぜ、元の塗膜と同じ「くすんだ白」を作り出さなければなりません。
この「くすみ」具合を再現するために、職人は元の白の色情報を解析し、何十回と試し塗りと調整を繰り返します。この作業一つ一つが、文字通り「新しい一色の白」を生み出しているのです。
2. 光と素材による色の変化
同じ「白」の塗料を塗っても、素材や光の当たり方で色は違って見えます。
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反射率: 外壁に塗る白と、室内の壁に塗る白では、求められる反射率が違います。反射率が低い白は「落ち着いた白」、高い白は「明るい白」に見えます。
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メタ・パール: 車の「パールホワイト」のように、光沢材(パール剤やメタリック粒子)を混ぜた白は、光が当たると青や金色に輝き、影になる部分はグレーに見えます。この「輝きと影のバランス」を調整するために、職人は粒子の配合量や吹き付け方を変えます。これもまた、新しい「白」のバリエーションです。
アンミカさんが「200色あんねん」と言うとき、彼女はファッションやコスメの分野で、**「素材(テクスチャ)の違い」を含めた「白」のバリエーションを指している可能性が高いです。塗装の世界も同様に、「ツヤの有無」「粒子の大きさ」「透け感」**によって、白の印象は無限に広がるのです。
🎨 まとめ:職人の目指す「最高の白」
塗装職人にとっての「白」とは、単に「明るい色」ではなく、**「最も繊細で、最も奥深い色」**です。
アンミカさんの「白200色あんねん」という言葉は、大衆の色への関心を高める、非常に素晴らしい表現でした。そして、私たちプロの目から見ても、**「白のバリエーションは200種類どころか、無限に作り出せる」**という真実を、改めて強く認識させてくれる言葉でもあります。
私たちが日々目指しているのは、お客様の愛車や建物を、**周囲の環境と調和させ、元の状態、あるいはそれ以上に美しく見せる「最高の白」**を作り出すことです。それは、ただ白い塗料を塗ることではなく、長年の経験と知識に基づいて、数滴の顔料で色を操る、まさに職人技の結晶です。
もしあなたが、愛車や自宅の外壁の色で悩んでいるなら、「白」という選択肢を深く考えてみてください。そして、その時こそ、**「どんな白がいいですか?」と、私たち塗装のプロに尋ねてみてください。私たちは、あなたに最適な、「201番目の最高の白」**を見つけ出してみせます。